
網膜病変として24週齢で網膜厚肥厚、網膜毛細血管径の拡張、ペリサイト/内皮細胞比の減少、網膜毛細血管での白血球接着分子の発現が認められました。SDT fattyラットはヒト糖尿病網膜症の病態研究に有用な動物モデルと考えられます
非肥満型2型糖尿病モデル動物であるSDTラットに肥満遺伝子であるレプチン受容体変異を導入したSDT fattyラットは、SDTラットよりも糖尿病発症が早いため、早期から腎病変や神経病変などの糖尿病合併症を呈します。しかし、糖尿病眼合併症については未だ報告が数報しかありません。
これまでSDT fattyラットでは以下の結果が明らかになっております。
SDT fattyラットの網膜で炎症関連分子が上昇している
<リアルタイムPCR >
(SD n=5, SDT fatty n=4 , *P<0.05 **P<0.01)
(菊地ら, 第25回日本糖尿病眼学会総会, 2019)
< Luminex assay >
(SD n=5, SDT fatty n=4 , *P<0.05 **P<0.01)
(菊地ら, 第25回日本糖尿病眼学会総会, 2019)
本研究は、SDT fattyラットの糖尿病眼合併症の形態学的変化を観察し、病態解明に貢献することを目的としました。
手法 (Method)
本研究は、SDT fattyラットの糖尿病眼合併症の形態学的変化を検討したものです。対照群はSprague Dawley (SD)ラットを用いました。網膜の形態変化として、網膜厚を測定しました。網膜毛細血管の変化は、以下の2つの方法で検討しました。
- トリプシン消化法を用いて血管標本を作成し、毛細血管径とペリサイト/内皮細胞比を測定しました。
- 網膜毛細血管における白血球接着分子の発現を免疫染色で確認しました。
その結果、SDT fattyラットでは、網膜厚の増加、毛細血管径の拡張、ペリサイト/内皮細胞比の減少、白血球接着分子の発現増加が認められました。
結果(Result)
HE染色像(24週齢)
網膜厚(24週齢)
SDT fattyラットの網膜はSDラットと比較して有意に肥厚していました。
トリプシン消化法
- 摘出した眼球を10%中性ホルマリンで固定する
- 網膜を分離し、蒸留水で一晩洗浄する
- 1% triton X−100 を用いて20分間処理する
- 37℃に加温した3%トリプシン溶液で60分間定温放置する
- 蒸留水中で内境界膜および血管以外の網膜組織を分離させ、網膜血管を単離する
トリプシン消化標本(HE染色/24週齢)
網膜毛細血管径(24週齢)
SDT fattyラットの網膜毛細血管径は有意に拡張していました。
ペリサイト/内皮細胞比(24週齢)
SDT fattyラットのペリサイト/内皮細胞比は、SDラットと比較して有意に減少していました。
白血球接着分子の発現
免疫染色(SDラット)
免疫染色(SDT Fatty ラット)
- SDT fattyラットの網膜毛細血管において、白血球接着分子ICAM-1とVCAM-1の発現が認められました。
これらの結果から、SDT fattyラットでは、糖尿病の進行に伴い、網膜と網膜毛細血管に以下の変化が生じることが明らかになりました。
結論(Conclusion/Discussion等)
SDT fattyラットは、ヒト糖尿病網膜症の初期変化を反映していると考えられ、ヒト糖尿病網膜症の病態研究に有用な動物モデルになると考えられます。
糖尿病網膜症における毛細血管の初期変化
SDT fattyラットは糖尿病網膜症の初期変化を反映している。
1)Romeo G et al. Diabetes. 2002
2)Dong A et al. Transl Vis Sci Technol. 2021
3)Miyamoto K et al. Proc Natl Acad Sci USA. 1999
4)McLeod D S et al. Am J Pathol. 1995
具体的には:
- 糖尿病の進行に伴い、網膜と網膜毛細血管にさまざまな形態学的変化が生じる。
- これらの変化は、ヒト糖尿病網膜症の初期変化と類似している。
- SDT fattyラットは、ヒト糖尿病網膜症の病理学的特徴を再現できる。
よくある質問(FAQ)
何週齢ごろから網膜病変が出現するのでしょうか?